音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

青春の子守歌 (サンタナ : Santana) [3/3]

サンタナのイメージ5

 そんな、比較的軽視されているサンタナの作品の中でも、『シャンゴ』は特に軽視されていて、なぜかリマスタリング、オリジナル紙ジャケットでCDが再発されるのも凄く遅かった。

フィルモア時代からの盟友で、あの「ブラック・マジック・ウーマン」を独得の声で歌っていたグレッグ・ロウリーが久々にブレーンとして参加し、その成果が「ホールド・オン」という80年代サンタナを象徴するヒット曲に昇華した傑作なのに…どういう訳か、僕の評価と、世間の評価との間には大きな開きがあるようで、それは今も変わらない。

 僕にとっては、様々な事を改めて教えてくれた、知識と解釈力と表現力とがうち揃ったアルバムで、サンタナの歴史の中でも、同様に様々な事を教えてくれた3作目『サンタナⅢ(スリー)』('71年)と並ぶ教科書のような傑作だ。

先ず『シャンゴ』というタイトルだが、これは“激しい風とか嵐”を象徴するアフリカの神の名前で、それが転じて、打楽器が互いに呼応して会話のようになる、つまり、後のアメリカのブルースやジャズやR&Bの基本要素である“コール&レスポンス”な激しい音楽を指す言葉になった、というのは音楽学でも文化人類学の中で常識だ。

そして、近年、そのシャンゴがなまって、19世紀南米でタンゴになった、という説が有力だ。

サンタナは、『シャンゴ』で、まさに200年程前の、アフリカから南米、そして後にアメリカやヨーロッパや東洋にまで及んでくる熱狂的でありながらどこか哀しい音とリズムの波を、見事に表現していると思う。

このアルバムを聴いていると、アフリカ大陸のどこかに、ひょっとして有形で残されているかもしれないシャンゴの神を、いつか参拝したい、という気持ちに襲われる。

サンタナのイメージ3