音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

赤き血と情熱の音楽?(その1) [2/3]

 例えば、フィラデルフィアのクラブ・サウンドのプロデューサー、キング・ブリット(シルク130という別名もある)の最近のプログレッシヴなプロジェクト、フロストン・パラダイムが、やはりフィラデルフィア在住のシンガー、ピア・エルコールと共演している「アヴェ・マリア」・・・

ジャズ界を代表するサックス奏者ゲイリー・バーツと、やはりジャズ界の超人気ベーシスト、ロン・カーターのふたりによる「チェロ組曲第1番」・・・あたりは、小学校の音楽室以来、あらゆる場所で耳にしてきたおなじみの曲なので、うわあ凄いアレンジだなぁ、とびっくりするのと同時に、えっ、こんな大胆な編曲をして“音楽の父バッハ”とさんざ教えられた楽神があの世から怒声を発するのではないか・・・と、とにかく驚きと感心の連続!

アルバムを一気に最後まで聴く内に、小学校時代の、おしゃれだけどかなり恐い池内先生が、指揮棒を振りながら怒っている顔が浮かんできた。

 他にも、アイスランドの女性4人組ロック・バンドのアミーナとか、ベルリン在住のアメリカ人作曲家/ピアニストのダスティン・オハロランとか、フラット・マンドリンの名手クリス・シーリーとか、世界には、それ程名前が知られていなくても、もの凄い演奏力や表現力を持つアーティストがまだまだいっぱいいるんだなぁ、と知る機会になる楽曲が並んでいる。

その楽曲が全て、これまでどこかで耳にしてきたJ.S.バッハの楽曲だから、余計に、アーティストの才能や特異性が伝わってくる・・・

そこが、こういう優れた企画アルバムの持ち味であり、比類無き価値なのだろう、と久しぶりに思った。