音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Night In Tunisia(チュニジアの夜)(その4)

2015.06.18

 忘れ難き曲「チュニジアの夜」を思い出したのは、昨年(2014年)12月24日のニュースで、チュニジアに新しい大統領が誕生した事を知った時だった。

新大統領カイドセブシは、88歳の高齢ながら、独裁政権を倒し、いわゆる“アラブの春”の先駆けとなった2010年の革命時のリーダーであり、革命後の国会議長を務め、世俗派政党ニダチュニスの党首として、国の民主化の先峰に立つ人物である。

イスラム系の強力な党もあれば、過激派による野党指導者の暗殺も相次ぐまだまだ乱世の国で、彼の就任は、西欧流に言えば、クリスマス・イヴの吉報のように聞こえた。

チュニジアの国情国政に詳しい訳でもなんでもないが、アラブの民主化を讃えたフランスのラッパー、ソル(Sole)の曲に、ずばり「カイドセブシ」という曲があり、少なくとも、TVで短くニュースが流れた時、BGMで流れている「ジングルベル」や「赤鼻のトナカイ」や山下達郎の「クリスマス・イヴ」等よりも、ソルのラップや、古曲「チュニジアの夜」の方が、リアルに頭の中に登場した。


 カイドセブシ大統領の下、2015年1月にはリベラルな連立政権が発足するとニュースも伝えてはいたのだが・・・先ず、年明け1月には、フランスの新聞社が襲撃され、同月末には、日本人が殺害され、ベルギーその他でも抗争やテロが相次ぎ、とうとう3月18日には首都チュニスの博物館が襲われて、日本人を含む外国人旅行客ら23人が死亡した。

アラブの春、日本の桜どころではなく、ニュースは、イスラム国(IS)関連のものが、完全に主たる席を占めるようになってしまった。


 動画サイトに、まるで'90年代のギャング・ラッパーのようにキャップやマスクや戦闘服であらわれ、当たり前のようにメッセージもしくはアジテーションをリズミカルに発し、人質になった人を平気で処刑するシーンを流す様子を観ていると、先ず、インターネットという地球をくまなく包む便利なものが、既に武器の域にまで成熟あるいは退廃した事を知らされ、そして、いかなる既存のメディアよりも、そのスピードと伝播力の強さも完璧にアピールしている事に、改めて驚かされた。