音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Night In Tunisia(チュニジアの夜)(その1) [2/2]

 チャカ・カーンは僕より若いが、ジャズやブルースの盛んな古都シカゴで育っているから、デイジー・ガレスピーやアート・ブレイキーの生演奏も体験している。

それに、プロデューサーのアリフ・マーディンが、デイジーのレコーディングで、駆け出しの頃から鍛えられたいわば弟子だった事もあり、この曲を自分達流で録音するアイデアがわいたのだろう。

これまでにも、「チュニジアの夜」に歌詞をつけてヴォーカル曲に仕立てたジャズ・シンガーもいたが、チャカはまったく新しい詞を自分で書き、ヴォーカルを多重録音してジャズ・コンボのような効果を生み、ゲストに迎えた御本家ディジーのトランペット・ソロを見事にひきたてている・・・僕にとっては、最初の動画インパクトの曲から、ソウルとジャズのカテゴリーの区別なんてものを完全に取り払ってくれた名改作。

この曲を収めているだけで、チャカの代表作は?と問われると、迷う事なく、アルバム『What Cha' Gonna Do For Me(恋のハプニング)』('81年)と答えるようになり、長年、気楽に聴き、気楽に興奮し、気楽に和める愛聴盤となっていた・・・

しかし、旅行地としても人気のチュニジアの博物館で、イスラム国支持のテロが起こってから、どうにも微妙な、バランスの悪い気持ちに襲われるようになった。(次回に続く)