音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Night In Tunisia(チュニジアの夜)(その1)

2015.04.16

 1981年にプロモーション来日をしていたチャカ・カーン(Chaka Khan)に、東京品川のホテルでインタビューした時、星と赤い半月、黒いライオン、古代の計量器、そして帆船がひとつのワッペン型の模様の中にデザインされたプリントのT-シャツを貰った。

不覚というより不勉強で、その絵柄が一体何なのか、知らないまま2年ばかりが過ぎてしまったが、偶然観たTVの旅番組で、北アフリカのチュニジア共和国の国章であった事をやっと知る・・・考えてみれば、アフリカ大陸の北端にあり、西にアルジェリア、南にリビア、地中海をはさんでイタリアがあり、古代からヨーロッパとアフリカと中東地域との接点。

国章の絵柄は、その特異な立地を見事に表している、と随分後になって知った訳だが、もっと早くに知っていても良かった。

 というのも、敬愛する歌手チャカ・カーンと、同じくアレサ・フランクリンやダリル・ホール&ジョン・オーツ、アヴェレイジ・ホワイト・バンド等を手懸けて、僕の音楽観に多大な影響を与えたプロデューサー、アリフ・マーディン(Arif Mardin)が、二人の共同作業としては最高の傑作と言える曲「永遠のメロディ(チュニジアの夜)/ And The Melody Still Lingers On ~ Night In Tunisia」をその'81年に作り出し、チャカとアリフのクリエイティヴィティが最高のレベルに達していたと痛感していた時期だったからである。

チャカとアリフの「チュニジアの夜」は、亡きバードニとチャーリー・パーカーの名演奏で1940年代から有名なジャズ・スタンダードだが、空に向かって45度の角度に曲げられたトランペットで知られるディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)が'42年に作曲し、自から演奏するレコードもあるが、バードのみならず、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのエネルギーたっぷりの演奏他、数多くの名演が存在する。

 アート・ブレイキーの熱演は、亡き石原裕次郎がジャズ・ドラマーを演じる出世作『嵐を呼ぶ男』(1957年)の中で、練習曲として少し登場したのを観た時から、耳と脳に焼きついていて、小学生の子供にとっては“大人の曲”であるはずなのに、現代で言うところの“動画の曲”として、チャカの改作版のタイトルを借用するなら、永遠のメロディ、となっていた。