音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

ゴールデン・リングの中のネナ ① :Neneh Cherry (ネナ・チェリー)

2013.11.07

 ネナ・チェリー(Neneh Cherry)の歌声や音楽は、ロンドンの街を始めとしたイギリスのあちこちの風景と結びついていて、彼女のアルバムを聴くと必ず、わずかにしか知らないものの、イギリスで目にしたものや嗅いだ香り等がよみがえってくる。

シャーデー(Sade)の初めての全英ツアーが始まるという事で、僕がイギリスに飛んだのは1985年の晩秋11月。

それまで、アメリカ圏にしか行った事がなかったので、初めてのヨーロッパでもあった。

慣れない英語(つまり米語ではないイングリッシュ)に大いに戸惑いながら、有名なオースチン社のタクシーに乗って、ロンドン市街地のホテルに向かっていく途中、運転手が、BBC放送のラジオを聴きながら、時たま、頭を揺すりながら鼻歌でコーラスをつける…それが、ネナ・チェリーが最初に在籍したグループ、リップ・リグ&ザ・パニックの曲だと気づくまでに大部時間を要した。

ロンドンのタクシー・ドライヴァーは、空港で外国人を乗せると、サービスのつもりでビートルズの曲をカセットで流すという都市伝説めいたロンドン通の噂話を聞いていたので、80年代初めに、南西部ウェールズ州のブリストルから出てきたポスト・パンクのグループ、中でも、とてもファンキーなサウンドのリップ・リグ&ザ・パニックの曲が流れているとは…正直、長い飛行旅の疲れもあって、凄く異和感に襲われた。