音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

ジョージのRellowな世界 ③ :George Harrison (ジョージ・ハリスン) [3/3]


 ・・・と、うがった見方がむくむくしている時に、ボブ・ディランの『アナザー・セルフ・ポートレイト』という大作アルバムがリリースされた。

ディランのブートレッグ・シリーズの10作目で、つまり、曲が出来上がる過程でのデモ・ヴァージョンや未発表ヴァージョン、未発表曲等を一気に集めた倉庫解放のような“公式海賊盤”シリーズの最新盤。


'69年から'71年あたりのディランの様々なセッションや実験的録音が集積されているが、ジョージが『オール・シングス・マスト・パス』の中で取り上げ、僕が一番好きな曲「イフ・ナット・フォー・ユー」(ディランとの共作曲)の原型版が入っているので、久しぶりに耳そばだててディランを聴いた。

更に、これまで未発表だったが、ジョージが、コーラスとギターで一緒にセッションしているフォーク・ブルースのような曲が2曲。


ディランの正式な『セルフ・ポートレイト』('70年)は、ディラン自身の自画像がジャケットを飾り、サイモン&ガーファンクルの曲を歌っていたり、かなりリラックスしたディラン像のアルバムで、当時、尖るだけ尖っていたディランのイメージをくつがえすものだった。

当時、僕も戸惑いつつ、結構好きだな、と内心思いながら聴いていたが、今思うと“人間には、静かな季節と激しい季節がある”と言ってすすめてくれた同級生の井藤クンと成田クンに感謝しなければ…あの正式盤を聴いていなければ、このブートレッグ盤で、どことなく温和なディランをすぐに理解できなかっただろう。

つまり、そこには、ジョージが、かなり長い時間、一緒に居たのである。


 色んな偶然から、このところ、ジョージ・ハリスンを思い出す事が多かった。

旧東京オリンピックやビートルズ唯一の来日公演があった高校生時代、ビートルズ2作目の主演映画『HELP!』に『4人はアイドル』という邦題がついていたのである。
ジョージも、確かに、アイドルのひとりだった。

その時からわずか5年程の間に、ディランのような孤高尊大な気難しい男を、ほんの少しでも温和にしてしまう何かを把んだ人になったのである。

 神との距離を最後まで維持した不朽のアイドル出身の静かな大ミュージシャン。


そのジョージのアルバムの数々を、しばらく、聴き直してみようと思う。
特に、第2作『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』('73年)を。

この混乱とアイドル百花繚乱の今の日本で、どう聴こえてくるのだろう?