Fame. その34 [3/3]
しかし、外川に、音楽の中の絵心のようなもの、を意識したのはいつ頃からか? との質問をインタビュー時にしてみたところ…
「小学生の頃、音楽塾、そこでは楽理や作曲、ソルフェージュ(Solfége:楽譜を読むことを中心にした基礎教育)等を学ぶセミナーに通っていて、その頃から、作曲をするのが大好きでした。先生が、教室に飾られている花を指して、このイメージで作曲してみよう、とか、心に浮かぶ風景やイメージを音にしてみよう、とか言って、それぞれ好きな様に曲を作っていくんです。それが楽しくて仕方なかった。それが今に至っています」との返答。
幼い時の貴重な学習体験、と言ってしまえばそれまでだが、幼い時の体験を生かすのは大変な事で、敬意を惜しまない気になる。 そんな彼女の、絵画と音楽の意識という点で、共通するものを感じ、共感するアーティストにはどんな人がいるのだろう?
バート・バカラックやアントニオ・カルロス・ジョビンといった巨匠とともに、スナーキー・パピー(Snarky Puppy:テキサス州出身のジャンルレスな大型ファンク/R&B・バンド)とロバート・グラスパー(Robert Glasper)の名前が挙げられてきた。
「ロバートの作品と演奏の裏には、様々な映像と風景が見えます。とてもシンプルで短いフレーズから始まるのに、伸びたり絡みあったり、光を放ったりしていき、様々なイメージを見せてくれます。彼の指は絵筆のようで、そこにはいつも、軽いエスプリとジョークが垣間見えるんです」
ロバートは、僕も敬愛するアーティストだが、特に、彼が、故マイルス・デイビスが残した膨大なマスターテープの中からセレクトした曲を、自身はもちろん、現代の尖端をいくアーティストをフィーチャーしながら再構築したアルバム『エヴリシングス・ビューティフル』(2016年)が好きだ。
これを聴いていると、ある写真家のスタジオでアシスタントをしていた20代の頃、過去の先生のネガや写真を整理しながら、新しい写真と一緒にファイルし、勝手にタイトルを附けて記憶していた作業の楽しさを思い出す。
ロバートやThe Notesの音楽は、過去の大切な体験と現在の作業や夢想との間には、そんなに距離はない、と教えてくれるようだ。
※今回もタイトルに借用したのは、マイルス・デイビス '85年のアルバム『オーラ(Aura)』の中の2作品です。(文中敬称略)