Fame. その33
2018.10.28
色彩に限ると、外川さんの創作を一番刺激する色、あるいは、色の組み合わせは何でしょう?
という僕がメールで送った質問のひとつ…それに、シンプルで、そして、きっぱりとした答が返って来た。「Blue!」。
外川智子(とがわ ともこ)は、ヴァーサタイル、つまり、多彩でジャンルを超えた音のフィールドとテクニックを持つピアニストである。
同じように、スパニッシュ/フラメンコを身体の軸に持ちながら、ジャンルの壁をしなやかに超えていくギタリスト、小林圭吾(こばやし けいご)とのデュオ・グループ the Notes of Museum(ザ・ノーツ・オブ・ミュージアム)は、今、とても好きなグループだ。
その名も"美術館の音"と名乗るぐらいだから、きっと絵画を始めとする美術作品や映像/空間の美術、何よりも色彩に敏感な人たちであろう、と想像していた。
2017年の初夏に、彼らの1st.アルバム『1st Exhibition』を聴いた時から、絵や風景や良質の映像を想像させるサウンドと、適度にイージー・リスニング感も持つセンスに気づいていた。
小説家や脚本家は、音楽を好きなのに、音楽が想起させる風景や色彩や物語が邪魔になって、モノを書く時には絶対に音楽を聴かない、と言う事が多い。
FMの番組にゲストとして登場し、録音後に「どんな曲をかけますか?」と問うと「うーん、君にまかせるよ」と答える先生があまりにも多いので、話の内容や感触から、イマジネーションわくにまかせて勝手に曲を選んだのが選曲者としての始まりだった。
その逆もあって、勝手に失選曲をして、それに合ってそうなトークやスクリプトを話し手に欲求するような厚かましい行為を、今では、やっていたりする。
the Notesの音楽は、そのイマジネーションの正道と逆道の双方を刺激するもので、それは、都会の昼と夜の風景、逆に、幼ない頃の悪童時代に遊びまわっていた川や原っぱの風景、小学校の授業をなるだけサボり通っていた三館ある映画館で呆れるほど観た内外の映画のシーンの数々…など、表の視覚と背中の聴覚を交互に使わせるような力を持っている。
パリの下町でカリブ海系のマルティニーク(移民)が淹れた苦いコーヒーを飲みながら、京都の寺で十六茶をふるまってもらった事を思い出しているような感覚だ。