音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その32 [2/2]

「あそこだったら、あの新刊の小説、もう入ってるわよ、ねぇ」
「うん、うん」

 小説? B.B.? 新手の本屋か?

 好奇心だけは衰えぬ僕は、慣れないネット検索を駆使してB.B.を探してみると…なんとBook&Bed Tokyo! 泊まれる本屋がコンセプトのホステル!

 更に好奇心が膨らみ、明くる日の夜、その泊まれる本屋とやらに出かけてみた。

予約もできると案内に書いてあるから、今度はロンドンの二の舞にならぬように予約し、どうせ背表紙見ても、新しい小説なんて何も知らないから、長年もう一度読もうと思いながらサボっていた『悪魔』(No.1(ナンバーワン).With A Bullet:イレーヌ・ジェズマー,Elaine Jesmer、1977年、槇ひろこ/訳)の上巻下巻とも持って出た。

    

アメリカのとある名門黒人音楽レコード会社に所属する人気シンガー&ソングライターと、彼を支える天才プロデューサーが、他人の著作権は平気で横取りするは、DJに大金を払ってチャートのNo.1は買取るは、の今も変わらぬ芸能界の裏舞台の悪界に悩むという一種の内幕小説。

苦界で苦悩する天才ふたりに、同時に、画期的な楽曲が舞い降りてくる。

まるで神の啓示のようなアイデアだが、それをまた横取りしようとする会社の幹部たち。

そのヒットぶりを見て、有望な黒人のレコード会社を買収しようと乗り出すユダヤ人経営の大手レコード会社。

更に悩みを深める天才ふたりのモデルになっているのは、マーヴィン・ゲイと、彼やテンプテーションズに新しい時代を提供したプロデューサーのノーマン・ホイットフィールドであろう事は明らかだ。

そして、ふたりが、仮題として「悪魔」と呼んでいた曲は、マーヴィンの「悲しいうわさ/I Heard It Through The Grapevine」、あるいはテンプテーションズの「パパ・ウォズ・ア・ローリング・ストーン」だろう。

 まともに小説を読む、それも、歌舞伎町の新しいホステルB.B.の読書フロアーの暖色の個別照明の灯りの下で小説を読み直すなんて、この30年以上、想像もしなかった姿だ。

これもゴジラのお導き? 平成終末30年、いや昭和93年のゴジラ神の啓示? 僕は、今日も、モータウン・ソウルを聴いている。