音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その27 [2/2]

そして、ジャンヌ・モロー演じるフロランスが、モーリス・ロネ演じる夫のジュリアンを殺す計画を静かに建てていく模様を、マイルスのブルージーで沈ウツで、それでいてエネルギッシュなJAZZが名脇役のごとく助演していく。

JAZZがどうのこうのというよりマイルスの音楽を即座に好きになってしまったのは言うまでもない。

 フロランスには、夫ジュリアンの経営する会社の社員である愛人がいて、なんとかその愛憎三角関係を有利に打開しようと知恵をしぼるのであるが、冷静な表情をくずさないまま悪知恵を極めていくジャンヌ・モローの演技は、子供心にも絶品で、小道具というより重要な大道具の役目を担うエレベーター、そして、マイルスのトランペットから発される音は、いまだに忘れられない。

 この映画を観るようにすすめたのは、3歳年上のKちゃん。やはり3歳上の姉が恋していた秀才で、スラッとした細身の長身、ほとんど笑わない少しニヒルな美男で、こりゃ姉ちゃんがせまっても、ちょっと無理かなぁ、と思っていたら、中学を卒業するとすぐに東京の名門高校に行ってしまい、やはり悲恋に終わった。

そんなKちゃんが中学卒業前の時、街中でばったり会った僕に、『死刑台のエレベーター』を観ろよ、と言ったのだ。「あの映画、君は2回観た方がいいよ」

 その言葉の意味がいまだに解らない。女の恐さを教える為か…音楽に敏感な少年Yにマイルスを教える為か?母にこっそり尋ねてみようかと思ったが、未知の機器エレベーター同様、なんだか恐くて、聞けぬままに終わってしまった。

ところで、その時、2回上演された映画を正直に観て魅せられたジャンヌ・モローは、この夏、2017年7月31日に亡くなった。

89歳のパリのエレベーターが止まってしまった。(次回に続く)
※今回無断でタイトルに借用したのは、レオン・ラッセル(Leon Russel)'74年の作品です。