音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その1 [2/2]

 もちろん、タイトル曲「レッツ・ダンス」を始め、同アルバムに入っている鬼才イギー・ポップ(Iggy Pop)との共作曲「チャイナ・ガール/China Girl」などは、曲も詞もヴォーカル表現も、そして、ナイル・ロジャースの編曲も素晴らしく、グラム・ロック創成期から出現したボウイ、パンク・ロック創成期から出現したイギー、そして、ディスコ&ソウル満開期が生んだ異才ナイルが、80年代に入って合流し、よくぞこれだけの異種混合の名曲を産んだものだ、と21世紀の今になっても感心してしまう程、僕の好きな作品だ。



 その伏線になっているのが、'75年の『ヤング・アメリカンズ/Young Americans』だろう。

きらびやかな女装に近いコスチュームとメイクで、性別を超えたグラム・ロックのスターとして1970年代のロンドンをリードした宇宙人が、突然、地球に、それも最も縁の無さそうだったアメリカ合衆国中東部の街フィラデルフィアに降り立ち、僕のようなソウル・ミュージックのファンぐらいしか知らなかったフィリー・ソウルのスタジオ・ミュージシャンをバックに配して、突然白人ソウル・ミュージック的アルバムを作り出したのである。

とてもアメリカンしたチェックの模様の普通のシャツを着たボウイのジャケットでの姿と、当時無名に近かったデイヴィッド・サンボーンのサックス他をフィーチャーしたサウンドを初めて聴いた時は、本当にショックだった。

後に知った事だが、その『ヤング・アメリカンズ』の最期に収録されている曲「フェイム」は、アルバム全体がどうも先取的でマニアックだと判断したボウイが、当時ニューヨークに住んでいたジョン・レノンをスタジオに招き「ヒット・シングルが必要なんだよ」と話し、わずか45分間で作り上げた曲だという。

レノンのビートルズ末期の名作「アクロス・ザ・ユニヴァース」のカヴァーもこの時短時間で録音している。

フェイム(名声)」への動物的カンの働きは、やはり普通の地球人のものではなかった、と改めて思う。(次回へ続く)