音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その7 [2/2]

 ボウイの『レッツ・ダンス』発表直後のインタビューで、とても印象に残っているのは、ボウイとナイル・ロジャースがともに映画マニアだった、という話だ。

曲のアレンジやサウンドのミックス・ダウン(仕上げ)の段階で、意志がうまく通じないと、ボウイとナイルは、あの映画のあのシーンで鳴っていたサックスとトロンボーンのハーモニーみたいな音、といった会話をくり返し、楽曲をまとめていったという。

まさか、ナイル・ロジャースへのインタビューで、古いハリウッド映画やフランスのヌーベルバーグ映画の話をいっぱい聞かされるとは想像もしていなかったので戸惑ったが、ナイルの弁によると、初対面の時、ボウイも相当戸惑っていたらしい。

逆に、ナイルは、ボウイが、新旧のR&B/ソウル・ミュージックに詳しく、特に、その頃、本国アメリカでもそんなに知られていなかったブルース・ギタリスト、スティーヴィ・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughn)のブルース・ギター・プレイに精通していた事に驚いた、と語っていた。

ナイルは、たまたま知っていたスティーヴィに連絡をとりスタジオに呼ぶ・・・非常に喜んだボウイは、当初レコーディングする予定のなかった「チャイナ・ガール」をブルージーに演奏するというひらめきを得て、あの名演が生まれたのである。

ボウイが、イギー・ポップとベルリンで作った不思議な曲を、ナイル・ロジャースのニューヨークっぽいリズム・ギターが終始リードし、そこに、テキサス・ブルースの精鋭スティーヴィ・レイ・ヴォーンのリード・ギター・ソロが浸入する・・・ロックやポップスは、理屈ではなく、感性の産物だなぁ、といまだにこの曲を聴くと思ってしまう。(次回へ続く)