音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その5 [2/2]

 そんな時、11作目のアルバム『ステイション・トウ・ステイション』が登場したのだが、先ず、不思議なジャケットだな、と思った。

仲間のひとり、ロック評論家でSF解説者の岡田英明が、すぐに“これは『地球に落ちてきた男』の中のシーンじゃないかな”と言う・・・彼は、SF専門誌『幻想と怪奇』で「SF.オン・ザ・ロック」という凄いコラムを連載していたが、もうその一年程前に、ウォルター・トレヴィスという作家の1963年の原作小説を紹介していて、その中で“もし映画化されるような事があったら、この主役はD.ボウイしかないな”と予言めいた事を書いていた。

鷲は舞いおりた』の主役をのがしたボウイに、『華氏451』等の作品で知られるニコラス・ローグ監督が、この企画を持ちかけたそうだ。

ローグも岡田も、ボウイしかないな、と考えた訳だから、ハマリ中のハマリ役に違いない。


 “ところで...”と岡田が話しかけてきたのは、『ステイション・トウ・ステイション』の事で仲間が盛り上がっている時だった。

コラム「SF.オン・ザ・ロック」も長く書いていて、ちょっと自分でも飽きたから、お前、このアルバムの事とか、代わって書かないか?と言う。

“いや、僕はSFには無知だから...”と断わったが、それがかえって新鮮だと続く。

結局「SF.オン・ザ・ロック」を引き継ぐ事になり、アルバム『ステイション・トウ・ステイション』について、なんとか書いたのだが・・・担当編集者からは、今回限りにして下さい、と言われ、二度目の依頼は無くせっかく友人が長く続けたコラムをつぶしてしまった。





 実は、その頃、ボウイは異星から何らかの事情で地球にやって来た男で、元々、地球人ではない、と思いこんでいた僕は、映画の内容やアルバムとの関わり等には興味がなく、ただ、アルバムの最後を飾っている唯一の他人の曲「ワイルド・イズ・ザ・ウインド(野性の息吹き)」の事だけに執着してコラムを書いてしまっていたのだ。




野性の息吹き」は、ジョージ・キューカー監督による同名の映画の主題曲で、主演のアンソニー・クインが映画の中で、歌詞に出てくるマンドリンをつま弾きながら歌うバラード。

映画が、なんとヒューマン・タッチの西部劇だったから、そのカントリー調と異星人ボウイとのアンバランスははなはだしい。

だが、1953年の渋い西部劇映画の主題曲を、わざわざカヴァーする着想とセンス、これぞ地球に落ちてきた男ボウイならではのもの、と思ったのだが、'76年当時は、友人達に笑われた、いや、嘲笑されたのがオチだった。(次回へ続く)