音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

左回りの時計 ~ Enigma (エニグマ) [3/3]

 『ザ・スクリーン・ビハンインド・ザ・ミラー』は、今にしてやっと理解できるのだが、ドイツの作曲家カール・オルフが1936年に作曲し、 翌'37年6月8日に、フランクフルトで初演したカンタータ(言葉を伴った歌曲)、そして、オルフの出世作と言われる『カルミナ・ブラーナ』をモチーフにしたアルバムである。

滅多にインタビューに応じないマイケル・クレトゥ(エニグマ)だが、これから3年後の『ボヤジュール』('03年9月)発表の際、珍しく電話インタビューに応え、

「前作の『ザ・スクリーン…』は、全てオルフの『カルミナ・ブラーナ』を下地に作った。いわばリミイクだ。『カルミナ…』は、20世紀に作られた音楽の中で、最も人間を高揚させる音楽で、特に、序奏から約4分間の「世界の支配者、フォルトゥナ」は素晴らしく、21世紀の始まりにふさわしいと思った」

と僕に語っていた。


 確かに、『カルミナ・ブラーナ』は、爆発的な人の声の力を一番表現できるカンタータだという事は、過去に意識した事はあるが、 その各パートを下地にしたエニグマの「グラヴィティー・オブ・ラブ」「モダン・クルセイダーズ」を聴くまで、それ程凄い音楽だとは思わなかった。

だが、亡きマイケル・ジャクソン '95年のビデオ・クリップ集『ヒストリー』のイントロの映像で、やはり『カルミナ・ブラーナ』が使われていることや、 近年のテレビ番組の音響効果に多用されている事、特にマイケルの死後、映像やクラブのD.J.のプレイで、このカンタータがよく使われている事を観ると、このクラシック曲、ひょっとすると、20世紀最大のヒット曲だったのではないかとさえ思う。

いずれにしろ、クラシックという先入観だけで観ては、その曲の力や香りがよく解らない楽曲もあるのだろう。

オルフ:カルミナ・ブラーナ

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