音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

灰色ネズミの見果てぬ夢3:Danger Mouse & Norah Jones (デンジャー・マウス&ノラ・ジョーンズ) [3/3]

ノラは、確かに2000年代に突出したアーティストだが、彼女に内在していたこんな手作り感と少し苦い感覚を引き出すデンジャー・マウスは、やはり、只のネズミではないなぁ、と再認識している。

 そういえば、新作を発表する少し前の2012年春先に、ノラは、デビュー前に一緒に活動していたLittle Willies(リトル・ウィリーズ)の一員として、バンドの第2作『For The Good Times(フォー・ザ・グッド・タイムス)』というアルバムも発表している。

ニューヨークのユダヤ人街ロウワー・イーストの音楽カフェ「リヴィング・ルーム」を根城に活動していた5人組で、今では、ノラはもちろんメンバー全員有名になった才能集団だが、デビュー前にやっていたカントリーやポップ・カントリーを、変わる事なく、しかし、適度に緊張してやっている。

昔を忘れる事のない同窓会、という以上のリラックスした真剣さ。
これまたユニークだ。

 ニューヨークに長く住む友人が言うには、他の都市では、ハリウッド流の大きなビルボード(看板)やTVスポットが、新作映画の宣伝として普通だが、ニューヨークのロウワー・イーストやリトル・イタリーのような下町では、昔ながらの横町に貼ったポスターがまだ主流である、それでなければ宣伝にならない…

デンジャー・マウスやノラは、そんなポスターを見て、B級映画の中のA級の傑作を見極める嗅覚を磨いたのだろうか?