音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

少年の耳2 :鈴懸の径 [3/3]

 NHK-FMの特番『クロスオーバー・イレブン 2011年夏』のスクリプトが、沖縄を舞台にしたノスタルジックなストーリーだったから、選曲の中で、沖縄の75歳のドラマー上原昌栄がなんと初めて作ったリーダー・アルバム『ウチナー・ビート/Uchina Beat』の中にある「鈴懸の径」を使ってみた。

スタジオのでかいスピーカーから流れるなじみになじんだメロディーとクラリネットの音を聴いていると、何故か、ダイアー・ストレイツ(Dire Straits)のデビュー・ヒット曲「悲しきサルタン/Saltans Of Swing」が頭の中に浮かんできた。

’78年に生まれたこの曲は、アメリカ南部のディキシーやフォーク・ブルース等ルーツ・ミュージックに傾頭しているリーダーのマーク・ノップラーならではのアーシーでノスタルジックな秀曲だが、“サルタンズ・オブ・スウィングという名の老バンドが、ライヴ・クラブで、ディキシーを()っている姿”を胸ときめかせて観ているノップラーの実体験から生まれた曲。

“若い連中がクラブの隅で騒いでいる。ロックンロールじゃないからさ”という歌詞の一部が、パンク後期のロンドンの街を描いていて、とても印象的だ。

75歳の上原昌栄のコンボの「鈴懸の径」も、もちろんロックンロールではない。

でも、沖縄のみならず最新の日本の何かを確実に描いている。

新しいか古いか、ロックかジャズか…

そんなデータのベクトルとは関係なく、僕の中には、色んなサルタンズ・オブ・スウィングが毎日演奏している。

(次回へ続く)