音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

少年の耳2 :鈴懸の径 [2/3]

 鈴木とハッコーの2本のクラリネットが演じる名演のレコードは、地方都市のレコード店には、時期の差もあって、なかなか入荷しなかった。

小学校3年生の担任教官は、いわゆるモボ(モダン・ボーイ)のはしりのような人だったが、当然の如く、このドーナツ盤を持っていて、僕に貸してくれた。

「ほんの10年前位まで戦争していたアメリカと日本のクラリネット奏者が仲良く、溶け合うように演奏している」と僕に語った一言は、まだ昨日の事のように耳に再生される。

このグローバルな時代、インターネットや光ファイバーを使って、顔も合わせた事の無い外国人同志が共演する事などCDの中にあふれかえっているが、日米の木管奏者ふたりが、即興でハーモニーやリズムを、限られた時間の中で生み出した跡は、1957年の古き時代を超えて、現在でも、とてもスリリングでロマンチックなものとして僕に響く…

これを懐古趣味とからかわれるなら甘んじて受けよう。

僕が50年以上ポピュラー・ミュージックを聴いて、これだけ素晴らしいハーモニーに遭った事は数える程しかなく、その中でも一番である。