音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

少年の耳1 :Dave Brubeck (デイヴ・ブルーベック)[2/3]

 「Take Five」は、様々な意味で画期的なジャズ曲、というより、ポピュラー・チューンである。

誰でも一度は耳にした事がある曲を、スタンダード・ナンバーとかクラシック、と呼ぶのが常識的だが、この曲を、ジャズ・スタンダードとかジャズ・クラシックと呼ぶのは、あまりに言葉が足りない気がして、かなり抵抗がある…

この曲を、僕が初めて聴いたのは、NHKのAMラジオの夕方の放送での事で、アナウンサーが、やや無機的な声音で“5/4拍子という変拍子に挑戦しているブルーベックのピアノとジョー・モレロのドラムスに支えられて、ポール・デスモンドの美しくクールなアルト・サックスが、都会的なメロディーを奏でています。”と紹介していたのをはっきりと覚えている。




まだ11歳だったから、クールな、という意味あいは、サックスのメロディーを聴いてもよく解らなかったし、5/4拍子という変拍子がどれだけ変則的なビートのとり方なのか、という事もよく理解できなかった。

ただ、その頃、ラジオのヒット・パレード番組でおなじみだったポール・アンカやニール・セダカや諸々のカンツォーネ・アーティストの曲と比べても、抜群にかっこ良く、すんなりとレコードを買おうという気になった。

今から考えると、ジャズの17cm・シングル・ドーナツ盤が地方都市のレコード店でも売っていた、という事自体が画期的である。

実際、全米ポップ・チャートのトップ30に入るヒットとなっていて、ジャズの領域では珍事件的楽曲だったのだが、それゆえに、マニアックで通(つう)を自任するファンの多いジャズ・ファンには“あんなの一般うけ狙いだよ”と馬鹿にされた面もあり、その傾向はいまだ続いている。