音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

熱いのは夏のせい2 … (ビギナーズ : Absolute Beginners) [3/3]

 思えば、石原裕次郎が'58年の日本に落とした爆弾の
ような映画『嵐を呼ぶ男』にも、共通した味があった。

ジャズ・ドラマーの若手のスター候補だが、やる事為す事
破天荒で、トラブルのタネでもある主役の裕次郎は、
ほとんど後のパンク・ロッカー。

ジャズの興業を握るヤクザに、大事な手をつぶされてしまうが、ドラマーでありながら歌もいけるので、きっと復活できるだろう、というところで、大ヒットという点では映画史に残る映画は終わる。

敗戦の痛手から抜け出した日本が、高度成長期に入る直前に見つけた“太陽族の不良”は、ジャズとロカビリーと歌謡曲を一瞬にしてフュージョンさせ、少なくとも僕の音楽観と映画観を一変させてしまった。
あの時の石原裕次郎、間違いなくアブサルート・ビギナーである。

 1958年初夏。

ビギナーズ

7歳上の姉が“裕次郎がはいているようなズボン”というだけの理由で、神戸の高架下かどこかの店で、子供サイズのブルージーンズを見つけてきた。
船荷のパッキングに使うらしく、中古のヨレヨレの、それでも米国製リヴァイス。

よくぞあんな時代にあんな子供サイズが在ったものだ、とジーンズをはき続けて半世紀以上になる現在、つくづく思う。

母は、なんのためらいもなく「これが合うから」と真っ赤なタオル生地のポロシャツとセーターを用意して、親が着ろというんだからいいだろう、とその格好で小学校に通っていたら、3人の先生と4人の上級生に
厳しく注意された。

理由は、不良みたいだ、学校にふさわしくない、生意気だ、
といずれもよく解らず、現在に至る。

Beginする事とは、きっと、そういう事なのだろう。