音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

熱いのは夏のせい … (ビギナーズ : Absolute Beginners)

2011.08.01

ビギナーズのイメージ1

 そういえば、1958年の夏は、気候だけではなく、心もとても熱く(暑く?)、特別な夏だったなあ、とロンドンの中心街の劇場の席で思った。

'58年といえば、僕は10歳で小学校の4年生。

兵庫県の田舎町の普通の男子生徒だったが、確かにその夏、何かが変わった、というより、何かを変えられた、という淡い記憶のようなものはずっと在ったのである。

 ロンドンの劇場のシートに坐っていたのは、30年近く後の1986年4月。

ジュリアン・テンプルという同世代の映像作家の映画『Absolute Beginners』の公開直前の試写会の取材だった。

ジュリアン・テンプルという人は、パンク・ロックの象徴だったセックス・ピストルズをドキュメントした記録映画的作品『ア・グレイト・ロックン・ロール・スウィンドル』でデビューした才人で、これを観た時から、何か僕のテイストと共通するものを感じ、その後、ローリング・ストーンズやデヴィッド・ボウイ、シャーデーなどのビデオ・クリップを手懸けるのをみて、少なくとも、この人は、音楽に、そして、音楽が軸になったカルチャーに相当鋭い目を持つ作家だと確信していた。

それゆえに、初めてと言っていい劇場映画の試写を観れるチャンスにとびついて、ロンドンくんだりまですっ飛んで行ったのである。