音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

ひまわりのジャズ(ステイシー・ケント) [2/3]

 彼女の8作目のアルバムとなる『パリの詩(うた)/Reconte-Moi』(2010年)は、名門フランス・ブルー・ノート・レーベルに移籍して2作目にあたる作品だが、タイトルから想像つくように、初めての全曲フランス語のアルバムである。

ステイシー・ケントのイメージ2

 フランスのジャズマンやシンガー・ソングライターが作ったオリジナル曲からボサノヴァ、いわゆるシャンソンの珍しい曲、ミュージカルに使われたアメリカのジャズ・スタンダード等、レパートリーは多彩だが、基本的にジャズ・ヴォーカル・アルバムである。

しかし、マイルス・デイビスが1950年代末に、フランスのノワール映画『死刑台のエレベーター』の音楽を担当して、それがきっかけでジャズの一般化人気が高まった頃の、パリの街の、どこの国の音楽も、どこの国の料理も受け容れてしまうフトコロの深さの伝統のようなものが全編に漂いにおっている近年珍しいアルバムだ。

ジャズやカントリーはアメリカのもの、シャンソンはフランスのもの、フラメンコはスペインのもの、 といったステレオタイプの分類を、いまだに我々はやってしまいがちだが、その最もアメリカ的なジャズやR&Bを最初に認め、人気上昇のきっかけを作ったのは、パリやロンドンの鋭いファンだったという 歴史の例は沢山ある。

ステイシー・ケントのイメージ2

 ステイシー・ケントは、生まれもっての異邦人で都会人。

意外と文化に保守的なアメリカ東海岸で生まれながら、パリの街の、ひょっとしたら古き良きパリの街の許容力(フレキシビリティ)の高さを、それに対しての讃辞を、音楽で表現しているのかもしれない。