音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Night In Tunisia(チュニジアの夜)(その2) [2/2]

 アンヌ・ドゥールト・ミキルセン(Anne Dorte Michelsen)の代表的アルバム『ラヴァーズ・ガーデン(Elskerindens Have)』は、その中の曲が、山田太一脚本のTVドラマで挿入曲として使われたりした事もあって、静かだが、決して小さくはない話題を呼び、’90年初頭の日本のシーンでは、かなりのヒット作となった。

デンマークの首都コペンハーゲンに住む女性シンガー&コンポーザーで、誰もが世界市場を求めて英語詞で歌う時代に、デンマーク語にこだわり、その少しゴツゴツした語感の詞や歌声とモダンなサウンドやメロディーは、とても魅力的だった。

『ラヴァーズ・ガーデン』 以外のアルバムも、前後して日本で発売されたから、いくらバブル期とはいえ、少なくはないファンが日本でも生まれていたのだろうと思う。


 僕も興味を持ち、’90年夏に、初めてのコペンハーゲンに飛び、アンヌにインタビューをした。

日本の松任谷由実や中島みゆき等にも共通するが、外国、特にアメリカやイギリスから入ってくる音楽に啓発されればされる程、母国語への愛着と、母国語でなければ表現できない表現にこだわる、という話はとても印象深く、記憶に残っている。

それと同時に、コペンハーゲンという街が、首都とは思えぬ静かでのどかな街で、レンタ・サイクル(貸自転車)の店が随所にあり、旅行者でも自転車を気軽に借り、のんびりと街の各所に行けるような雰囲気が、とても印象的だった。

 近年、環境や治安の問題がメディアで取り上げられる時、よく “良きモデル・ケース”として、デンマークと首都コペンハーゲンが紹介されるのもうなづける事だった・・・


だが、その街で、2015年2月、連続テロ事件が起こり、オマル・アブデル・ハミド・フセインというパレスチナ系の22歳の容疑者が射殺され、とりあえず一幕が終わった。

しかし、僕ならずとも、ショックを受けた人は多かっただろう。

コペンハーゲンが、いつの間にか、移民を積極的に受け容れる政策によって、多人種多宗教の街となり、その街で生まれ育った移民2世も多い中で、ユダヤ系とパレスチナ系の抗争がひょいと起こってしまう環境になっていたとは・・・。

アンヌのインタビューの際、通訳をしてくれたデンマークの日本大使館に務める女性が「この20年以上、殺人とか強盗といった凶悪犯罪はひとつも起こっていない」と言っていた事を、昨日の事のように、よく思い出していたのだが・・・。

近年のアンヌの音楽を聴いてみたくなった。




































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『音楽のまんよう』は「チュニジアの夜・5(番外篇)」(2015年執筆)をもって終了いたします。

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更新は今後も続けてまいります。

2022.9
ハーブ・ヒューマンズ・ブレイン