音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

梅咲けば、桜3 (グレイス・ジョーンズ: Grace Jones) [3/3]

そこに突然生まれたグレイス・ジョーンズの『ナイトクラビング』。特に、ピアソラの「リベルタンゴ」に、半ば強引に、副題にもなっている「I've Seen That Face Before (あの顔を見た事がある)」という少しミステリアスな歌詞をつけて退廃的に歌われる「リベルタンゴ」は強烈だった。

その時、スライ&ロビーが打ち出すジャマイカのビートと、本来この曲が当然持っている南米アルゼンチンのビートとの間には、母親を同じくするような連らなりが存在し、両者には大きな差は無い、と確信したような気がする。

その源流は、やはりアフリカから南米に来て、異邦人のガウチョ(移民カウボーイ)を踊らせたアフリカン・ビートなのだろうが、ビートが熱っぽく、深味がある分、哀愁も漂っているような気持になる。

 グレイス・ジョーンズの「リベルタンゴ」は、ロマン・ポランスキー監督、ハリソン・フォード主演の映画『フランティック』の中で、何度も何度も登場し、まるで“狂言まわし”のような重要な役柄になっていた。

異邦人ポランスキーも、ピアソラ・タンゴの異形のこのヴァージョンに、パリの街の底深い不気味さとともに、僕と同じような音への感覚を抱いたのだと思っている。

グレイス・ジョーンズの作品 (Liner notes)