音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その38 [2/2]

 オリンピックの開会式やTV放映などで、公式ソングと銘うって、ポップ・ソングが使われるのは今や常識だが、初めてそんな企画が採用されたのは、1984年のロスアンジェルス五輪の時。

この時、期間限定で『公式アルバム』が発売された。レーガン大統領時代のバブルの坂を昇る経済優先に世界中が追従した時勢ならではの産物で、クインシー・ジョーンズ、ジョルジオ・モロダー、TOTO、フォリナーなど、超一流のアーティストが各競技のオリジナル・テーマを提供していて、さぞや制作費がかかっただろう、と誰でも解る豪華盤。これのライナーを執筆した時が、今では懐しい。

そして、五輪が、米国TVの3大ネットワークのスポンサー・マネーに完全に支配されている事も、具体的に示している産物だった。

それ以降、五輪記念アルバムは常識常物になり、毎回、4年に一度の紅白歌合戦の記録のようなアルバムが発表されてきた。

 オリンピックの開会式のファンファーレなど、音楽とスポーツ競技の結びつきが、初めて生まれ演出されたのは、1936年のドイツ・ベルリン・オリンピックである。

別名“ヒトラーのオリンピック”と言われるように、ヒトラーが、ナチスとアーリア民族の優秀性を高らかに示し、国威というより民族威信を緻密に描き上げた大会だった。

ファンファーレだけでなく、五輪発祥地アテネからベルリンまでの聖火リレーも初めて生み出した。この聖火リレーのコースは、ブルガリアやユーゴ、ハンガリーなどを通るもので、事前のルート調査で得た情報が、その後のナチスの侵略に使われた事はあまりにも有名だ。

しかし、その頃から、ナチスが、巧妙複雑で解読不可能な暗号を使い、その暗号の名がENIGMAだった事はあまり知られていない。

オリンピックにとって、どうでもいい事かもしれないが、当時の最大の敵国アメリカのアトランタ五輪のメイン・テーマにエニグマの曲が採用された時は、驚きが先にたったものだ。

 さて、2001年のエニグマの『L.S.D~グレイテスト・ヒッツ』が、装い新たに2019年に再発売された。

なんで?と思ったら、日本の人気TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険~黄金の風』のエンディング・テーマに使われた「モダーン・クルセイダーズ」が評判になったからという。

カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」を使った勇ましいロックのこの曲は、なるほど荒木飛呂彦の大ヒット・アニメにぴったりだが、もし今、ベルリンでの五輪があったら、スタジアムや街路にぴったりでもあろう・・・なんて事を、書き直しの機会を得た新ライナー・ノーツの中で書きそうになった。

僕の頭の中のENIGMA(謎・暗号)をチコちゃんは知っている?(次回へ続く)

※タイトルに借用したのは、サンタナ1979年のアルバム表題です。