音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その33 [3/3]

 the Notesの第二作『2nd Floor』は、第一作以上に、そんな正逆の頭脳旅を刺激してくれた。

2018年の夏に、この旅を大いに進めて、僕の音楽観を少なからず変化させてくれた。

ロシアでのサッカー・ワールドカップ決勝の、ベルギー VS フランスの、あまりにも美しいスピードとテクニックを録画した映像…甲子園球場での第100回高校野球大会を通して、見事な演奏と応援ムーヴを見せていた大阪桐蔭のブラス・バンドの映像…日本全土を襲っていた豪雨や強風や猛暑を伝える映像etc.。

それらのほとんどにぴったりと合ってしまう各曲。不謹慎で、美しい音楽は、小さな美術館で、次々に観ていく新鮮な絵の連続のようだった。

 こういう音楽を創る人は、どんな絵描きを好んでいるのか…好奇心は高まり、外川に尋ねてみることにした。

 ニューヨークの新古典主義のはしりであるエドワード・ホッパー(Edward Hopper)や、クリントン大統領夫妻が、'90年代に自分たちのクリスマス・カードに使った事でも知られるトーマス・マックナイト(Thomas Mcknight)とともに、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)、ルネ・マグリット(René Magritte)、チェコ系オーストリア人のエゴン・シーレ(Egon Shiele)といったシュールの巨星たちとともに、ひとり、少し意外な人の名が挙がってきた。

 バスキアの名で知られる ジャン=ミシェル・バスキア(Jean=Michel Basquiat)。

 「歴史事象や社会問題などをポエムと絵画、記号などを織り交ぜながら描く彼の作画の中には、いつも音楽が見え隠れしています。作品を創る時には、好んでマイルス・デイビスを聴いていたそうです」

 プエルトリコ人の母とハイチ人の父との間に1960年、ニューヨークに生まれたバスキアは、'88年、27歳の若さで他界するまで、スプレー・アートで始めたビート・ペインティングで80年代を疾走したアーティスト。映画やドキュメンタリー・フィルムにも描かれたモダン・アートの異才だった。

2018年の夏の猛暑の中、SA・CDマルチ・ハイブリッド盤として再生されたマイルス・デイビスの『ビッチェズ・ブリュー(Bitches Brew):'70年』と、the Notesの『2nd Floor』を交互に聴いていた事を突然思い出した。(次回へ続く)

※今回、タイトルに借用したのは、マイルス・デイビス'85年のアルバム『オーラ(Aura)』の中の2作品です。(文中一部 敬称略)